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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)4852号 判決 1970年9月29日

原告

井嵜幸栄

ほか二名

被告

清水謙

ほか一名

主文

一、被告らは各自

(一)  原告井嵜幸栄に対し、金二、七九一、六六〇円およびこれに対する被告清水謙については昭和四三年九月五日から被告日比新博については同月六日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

(二)  原告井嵜由美に対し、金二、一九一、六六〇円およびこれに対する被告清水謙については昭和四三年九月五日から被告日比新博については同月六日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

(三)  原告井嵜至浩に対し金二、一九一、六六〇円およびこれに対する被告清水謙については昭和四三年九月五日から被告日比新博ひついては同月六日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、被告清水謙は、原告らに対しそれぞれ金六四、八〇〇円およびこれに対する昭和四三年九月五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、原告らのその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの、その余を被告両名の各負担とする。

五、この判決の第一、第二項は仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の申立

一、原告ら

(一)  被告両名は各自

(1) 原告井嵜幸栄(以下原告幸栄という)に対し金五、四三三、〇〇〇円および内金四、三五〇、〇〇〇円に対する被告清水については昭和四三年九月五日から被告日比については同月六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

(2) 原告井嵜由美(以下原告由美という)に対し金三、九三三、〇〇〇円および内金三、三五〇、〇〇〇円に対する被告清水については昭和四三年九月五日から被告日比については同月六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

(3) 原告井嵜至浩(以下原告至浩という)に対し金三、九三三、〇〇〇円および内金三、三五〇、〇〇〇円に対する被告清水については昭和四三年九月五日から被告日比については同月六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二、被告ら

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  本件交通事故の発生

とき 昭和四三年二月二六日午前〇時三〇分ごろ

ところ 池田市豊島南二丁目一番地の一、国道一七一号線道路上

事故車 普通貨物四輸自動車(岐)な八七八二号以下、単に(イ)車という。)

右運転者 訴外天神木祥明

被害車 小型四輪自動車(大阪五の七二二三号、以下、単に(ロ)車という。)

右運転者 亡井嵜二雄(以下亡二雄という。)

死亡者 右同人

腹部内臓挫滅の傷害により昭和四三年二月二七日午後三時五〇分死亡。

態様 亡二雄運転の(ロ)車が西から東へ進行中、訴外天神木運転の(イ)車が東から西へ進行してきて、本件事故現場直前で同方向に進行中の他車を追越すためにセンターラインを越えて進行し、(ロ)車右前部と(イ)車右前部が衝突した。

(二)  被告らの責任原因

(被告清水謙の責任原因)

(1) 訴外天神木の過失

右天神木は同方向に進行中の他車の右側を追越すにあたり、対向車その他の障害物の有無を確め、その安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、センターラインを越えて追越しをした過失があつた。

(2) 被告清水謙の責任根拠

被告清水はその事業の執行のために(イ)車を保有し天神木を雇用していたものであるところ、本件事故は同人が同被告の業務の執行として(イ)車を運転中に惹起したものであるから、同被告は(イ)車の運行供用者として自賠法三条に基き、また、天神木の使用者として民法七一五条に基き、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(被告日比新博の責任原因)

被告日比は、被告清水と義兄弟の関係により、本件(イ)車を保有して自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基き本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

(1) 療養関係費

原告ら三名は、本件事故による亡二雄の前記傷害治療のため、事故後より死亡に至るまでの入院治療費として一六二、五四〇円(各自三分の一に相当する五四、一八〇円宛)支出した。

(2) 葬祭関係費

原告ら三名は、亡二雄の死亡により葬儀を挙行し、右葬儀関係費用として、九六、八六三円(各自三分の一に相当する三二、二八七円宛)支出した。

(3) 逸失利益

亡二雄は本件事故のため、左のとおり得べかりし利益を失つた。

(職業)

大工職

(収入)

建設関係職種程の標準賃金は一日当り二、七〇〇円であつたから一ケ月間の就労日数二五日として、月収平均六七、五〇〇円を下らない収入を得ていた。

(生活費及び経費)

大工職としての経費及び生活費として一ケ月二〇、〇〇〇円、年間二四〇、〇〇〇円を超えなかつた。

(純収益)

右収入と生活費および経費との差額一ケ月四七、五〇〇円、年間五七〇、〇〇〇円

(就労可能年数)

亡二雄は本件事故当時三三才であつたから、平均余命は三七・三三年であり、右平均余命の範囲内で六三才まで三〇年間就労可能であつた。 (逸失利

右数字を基礎として亡二雄の逸失利益の本件事故時における現価を求めると一〇、四三一、四七八円となる(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による)。

(身分関係及び原告ら三名の相続)

原告幸栄は亡二雄の妻、原告由美は同人の長女、原告至浩は同人の長男であり、右同人の死亡により同人の被告両名に対する(三)(3)の損害賠償請求権を各三分の一(三、四七七、一五九円)宛相続した。

(4) 精神的損害(慰謝料)

亡二雄の慰謝料 六〇〇、〇〇〇円

原告幸栄固有の慰謝料 二、五〇〇、〇〇〇円

原告由美、同至浩固有の慰謝料 各一、〇〇〇、〇〇〇円

亡二雄は、原告ら三名の生計を維持し、生活の支柱であつたところ原告幸栄は夫亡二雄の幼少の二子を残しての不慮の死により生計の資を断たれ、現在箕面市立東小学校給食係として働き、ようやく生計を維持しているが、年令三〇才にして寡婦となり、多大の精神上の苦痛を蒙つたばかりでなく、将来の辛酸のほども充分予想されるものである。

また、原告由美、同至浩は幼少にして父を失い現在及び将来に亘つての精神的苦痛は大である。

(原告らの相続)

原告ら三名は、前記身分関係により亡二雄の慰謝料請求権を各三分一(二〇〇、〇〇〇円)宛相続した。

(5) 物的損害

原告ら三名は(ロ)車の処理費(レツカ車代)として二五、〇〇〇円(各自三分の一に相当する八、三三三円宛)および(ロ)車の車両損害として四〇〇、〇〇〇円(各自三分の一に相当する一三三、三三三三円宛)各支出した。

(6) 弁護士費用

原告らは被告両名が本件事故に対する損害賠償の支払を任意にしなかつたので、本訴の提起と追行を弁護士倉田勝道に委任し、着手金として昭和四三年八月七日、各自八三、〇〇〇円宛支払つた。

(四)  損害の填補

原告らは、前記損害に対し、自賠法による保険金三、一六二、五四〇円の支払を受け、これを相続分に応じ三分の一(一、〇五四、一八〇円)宛該損害金に充当した。

(五)  本訴請求

以上により、被告両名各自に対し、原告幸栄は右(三)の(1)ないし(6)の合計六、四八八、二七三円から右(四)を控除した残金五、四三四、一一三円の内金五、四三三、〇〇〇円および内金四、三五〇、〇〇〇円に対する本訴状送達の翌日である被告清水については昭和四三年九月五日から被告日比については同月六日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告由美、原告至浩各自は右(三)の(1)ないし(6)の合計四、九八八、二九三円から右(四)を控除した残金三、九三四、一一三円の内金三、九三三、〇〇〇円および内金三、三五〇、〇〇〇円に対する訴状送達の翌日である被告清水については昭和四三年九月五日から被告日比については同月六日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

(六)  被告らの主張に対する答弁

(1) 被告らの免責の抗弁および過失相殺の抗弁はいずれも争う。

第三、被告らの答弁及び主張

一、被告らの答弁

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  請求原因(二)の事実のうち、被告清水 が天神木を雇用していたことおよび被告日比新博が本件(イ)車の保有者であり、被告清水と義兄弟であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  請求原因(三)の事実のうち、亡二雄と原告らの身分関係については認めるが、その余の事実はすべて不知。

二、被告らの主張

(一)  運転者免責の抗弁

(1) 本件事故発生につき、(イ)車運転手天神には何ら過失なく、本件事故は専ら、亡二雄の過失によつて生じたものである。すなわち、

本件事故現場の道路は、幅員一一メートル(左右側端に約一メートルの簡易歩道がある。)の東西に通ずる直線道路であるところ、当時午前〇時三〇分という深夜で交通量は少なく、天神木は(イ)車を運転して先行のタクシーに追従して右道路を東から西に向つて進行していたが、対向車がなく右タクシーの追越が可能と思われたのでクラクションを鳴らしたところ、右タクシーが道路左側に寄り進路を譲つてくれたので、約五〇キロメートルの速度で追越を関始し、車体右側部分がセンターラインを越えた状態で右タクシーと併進したとき、前方約八〇メートルの対向車線の中央部附近を東進してくる(ロ)車を認めたが、距離も相当あり道幅も広いので十分対向し得ると考えてそのまま追越を続け、車体を左側車線に戻そうとする態勢で約三〇メートル進んだところ、(ロ)車がセンターライン寄りを猛進してきたので直ちに左にハンドルを切つたが(ロ)車はそのまま猛進してきて(イ)車に衝突したものである。

右のような事故現場の状況、事故時の交通量および先行車が道路を譲つた等の事情からみると(イ)車がセンターラインを越えた状態で追越をしたことは何ら責められるべきではなく、本件事故は専ら亡二雄が酒気を帯び前方不注視のまま漫然高速で(ロ)車を運転した過失ないしは(イ)車を認めてから亡二雄が(ロ)車を僅か左に避譲すれば容易に事故発生を回避し得るのにこれをしなかつた過失により生じたものである。そして、(イ)車には本件事故当時構造上の欠陥もしくは機能上の障害はなかつた。

(2) 過失相殺の仮定抗弁

仮りに被告両名に損害賠償責任ありとするも、原告にも前記のような過失があつたから、この過失は損害賠償額の算定に当つて斟酌されるべきである。

第四、〔証拠関係略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因(一)の事実については当事者間に争いがない。

二、(被告らの責任)

(一)  被告清水謙の責任

(1)  天神木の過失

〔証拠略〕によると、

(イ) 本件事故現場は、幅員一一メートル、アスファルト舗装のほぼ東西に通じ、西から東に向つてやや下り坂になつた平たんな見透しのよい道路で、道路の両側には各一メートルの歩道があり、車道と歩道とはコンクリートブロツクで区切られ、道路の中央にはセンターラインが引かれ、その最高速度は五〇キロメートルに制限されていること、

(ロ) 天神木は(イ)車を運転して右道路を東から西に向つて時速五〇ないし六〇キロメートルで進行中、対向車が少なかつたので同方向に時速約五〇キロメートルで進行していた訴外益好太郎運転のタクシーを追越すためにクラクションを鳴らしたところ、右タクシーが道路左側に進路を譲つたので追越を開始し、(イ)車の車体をセンターラインから約八〇センチ対向車線にはみ出して走行し右タクシーと併進状態になつたとき前方約八〇メートルの地点に対向してくる(ロ)車を発見したが、(ロ)車とすれちがう前に自車を左側車線に戻すことができると考え、そのまま約三〇メートル進行したところ、前方約二〇メートルのセンターライン寄りを(ロ)車が進行してくるのを見て、左転把の措置をとつたが及ばず、対向車線に約六〇センチはみ出していた(イ)車の運転席右ドア附近と(ロ)車の右前部が衝突し、(イ)車は進路をやや左に向けた状態で約一五メートル進行して西行車線中央部に停止し、(ロ)車は衝突してから東へ約四二メートル進んで歩車道を区分するために設置された道路北側のコンクリートブロツクと衝突してこれを破壊し、車体の大部分を道路外に出し、車首を南に向けて停止したこと。

(ハ) (イ)車は車幅二・四五メートル、車長七・七一メートルの特定大型貨物自動車であり、(ロ)車は車幅一・四二五メートル、車長四・一〇メートルの普通乗用自動車であること。

以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、天神木は追越をする場合、対向車両の有無を確め、進路の安全を確認して追越を開始すべき義務があるのに、これを怠り、また追越中に対向車を発見した場合は、同車との距離関係、速度等を適確に判断して直ちに追越を中止するか、追越可能の場合では早めに左へ転把して左側車線に戻る等の措置をとつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失があること明らかである。

(2)  被告清水謙の責任原因

被告清水が天神木を雇用していること、被告日比が(イ)車を保有しており、被告日比と被告清水が義兄弟の関係にあることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、天神木は(イ)車に石炭約一〇トンを積載して他人の業務としてこれを運搬中であつたことが認められる。

右事実に〔証拠略〕を綜合すると、本件事故当時、天神木は被告清水の業務として同被告のために(イ)車を運行していたものと推認され(天神木が被告日比にも雇用されていたことは後記認定のとおりであるが、このことは直ちに右認定の妨げとなるものではなく、他右認定に反する証拠はない。)、したがつて、右(イ)車の運行は被告清水のためにする運行と認めるべきであるから、被告清水は(イ)車の運行供用者として、また天神木の使用者として本件事故によつて生じた後記損害のうち人的損害については自賠法三条に基き、物的損害については民法七一五条により賠償する責任がある。

(二)  被告日比新博の責任

被告日比が(イ)車を保有していたことは当事者間に争いがないこと前記のとおりであり、〔証拠略〕によれば、天神木は事故当時被告日比にも雇用されていたことが認められる。

右事実および前記被告日比と被告清水の身分関係に照すと、本件事故当時天神木が被告清水の業務のために(イ)車を運行していた間も被告日比の(イ)車に対する運行支配および運行利益は喪失していなかつたと認めるのが相当であるから、被告日比は(イ)車の運行供用者として自賠法三条に基き本件事故により生じた後記損害のうち物的損害を除くその余の損害を賠償する責任がある。

三、(免責の抗弁に対する判断)

前記のとおり(イ)車運転手天神木に過失が認められるので、その余の点について判断するまでもなく、被告らの抗弁は失当である。

四、(損害)

(一)  療養関係費

〔証拠略〕によれば、亡二雄は本件事故による腹部内臓挫滅傷害のため、昭和四三年二月二六日より翌二七日午後三時五〇分死亡するに至るまで、池田市石橋一丁目一一番地、正井病院に入院し治療を受けたこと、および原告らはその療養関係費用として合計一六二、五四〇円を右正井病院へ支払つたことが認められる。

したがつて、原告らは、各自右金額の三分の一に相当する五四、一八〇円宛の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

(二)  葬祭関係費

〔証拠略〕によると、原告らにおいて、亡二雄の死亡により、昭和四三年二月二八日、葬儀を挙行した事案および右葬儀に関する費用として九六、八六〇円支出した事実が認められ、右金額は、相当な範囲内のものと認められる。

したがつて、原告らは、各自右金員の三分の一に相当する三二、二八七円の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

(三)  逸失利益

(1)  職業および収入

〔証拠略〕によれば、亡二雄は大工職人として、自ら建築の請負をする場合もあつたが、多くの場合、日給の大工職人として一ケ月平均二五日程度稼働し、日給二七〇〇円を下らず、一ケ月の平均収入は六七、五〇〇円、年間所得は八一〇、〇〇〇円を下らなかつたものと認められる。

(2)  生活費および経費

〔証拠略〕によると、亡二雄と同居しその収入により生計を維持していた家族は原告幸栄、同由美、同至浩及び同幸栄の母さよであり、右家族構成および前記収入額から考えると、亡二雄の生活費の収入に対する割合は三〇%を超えなかつたものと認められる。また、亡二雄は半自営、半日雇の大工職人として、仕事のための道具、通勤費等を自弁して稼働していたことが認められるが、右のような経費および租税の収入に対する割合は一〇%を超えなかつたものと認めるのが相当である。

従つて、亡二雄の生活費および収入を得るための経費の合計額は前記収入の四〇%、一ケ年三二四、〇〇〇年を超えなかつたものと認められる。

(3)  純収入

右(1)と(2)の差額、一ケ年四八六、〇〇〇円

(4)  就労可能年数

亡二雄の本件事故当時の年令 三三才

平均余命 三七・三三年(一一回生命表)

右平均余命の範囲内で六三才までなお三〇年間就労し得た筈である。

(5)  逸失利益額

亡二雄の右就労期間中の逸失利益の本件事故当時における現価は八、七五〇、〇〇〇円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による。ただし一〇、〇〇〇円以下切捨て。)

(6)  原告ら三名の相続

亡二雄と原告ら三名間の身分関係が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、したがつて亡二雄の死亡により、亡二雄の被告両名に対する右逸失利益請求権を法定の相続分に応じ各三分の一に相当する二、九一六、六六六円宛相続したものと認められる(円以下切捨)

(四)  精神的損害(慰謝料)

(1)  〔証拠略〕によれば、請求原因(三)の(4)記載のとおりの事実が認められ、その他本件証拠上認められる諸般の事情を斟酌すると、

亡二雄の慰謝料は 六〇〇、〇〇〇円

原告幸栄固有の慰謝料は 一、五〇〇、〇〇〇円

原告由美、同至浩固有の慰謝料各

七五〇、〇〇〇円

を相当と認める。

(2)  原告ら三名の相続

原告三名は亡二雄の右慰謝料六〇〇、〇〇〇円の損害賠償請求権を前記身分関係に基き、法定相続分に応じ、各三分の一に相当する二〇〇、〇〇〇円宛を相続したものと認められる。

(五)  物的損害

(1)  車両処理費(レツカー車代)

原告主張事実を認めるに足る証拠は何も存しない。

(2)  車両損害について

〔証拠略〕によれば、原告らにおいて、(ロ)車の所有者である橋本明に対し、車両弁償代金として四〇〇、〇〇〇円を支払つたことが認められるが、〔証拠略〕によれば(ロ)車の事故当時の価格は二五〇、〇〇〇円であつたところ、本件事故による破損のために廃車した際の残存価格が七、〇〇〇円であつたことが認められるから、本件事故と相当因果関係にある車両損害は、右四〇〇、〇〇〇円の内、二四三、〇〇〇円であると認められる。

したがつて、原告らは、各自右二四三、〇〇〇円の三分の一に相当する八一、〇〇〇円宛の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

五、(過失相殺)

本件事故発生の状況、(イ)車および(ロ)車の車幅、事故現場の状況は、前記二の(一)の(1)において認定したとおりであり、右事実によれば、(イ)車がセンターラインを八〇センチ程度越えていても、車幅一・四九メートルの(ロ)車は僅かに左へ転把すれば十分対向可能であり、当時右措置をとるのを妨げるような外的な事情はなかつたのに、亡二雄はセンターライン寄りに(ロ)車を走行させて衝突するまで何ら衝突回避の措置をとつていないことが認められる。このことは亡二雄に前方不注視ないしは制限速度違反の高速度運転(前記事故状況によれば、(ロ)車は制限速度を相当超過していたものと推認される。)のためハンドルを適当に操作し得なかつた過失があつたことをうかがわせるに十分である。したがつて、亡二雄の右過失は損害賠償額の算定に当つて斟酌すべきであるが、前記事故の状況、天神木の過失の内容等を考慮すると、過失相殺により前記損害賠償請求権の二割を減ずるのが相当である。

六、(損害填補)

原告ら三名は自賠責保険金三、一六二、五四〇円を受領したことを自認するところ、自賠責保険金制度の趣旨ならびに〔証拠略〕によれば、右自賠責保険金は物的損害を除くその余の原告らの損害に、その債権額に応じ、各二、〇五四、一八〇円ずつ充当されたものと認められる。

七、(弁護士費用)

〔証拠略〕を綜合すると、法律的素養のない原告らは被告らが本件事故による損害の賠償請求に応じないので止むなく弁護士倉田勝道に本訴の提起と追行を委任し、同人に対し着手金として二五〇、〇〇〇円の支払をしたことが認められる。

そして、本件事案の難易、前記認容額等本訴にあらわれた一切の事情を考慮すると右原告らの出捐額は本件事故と相当因果関係ある損害と認められるから、原告らは被告らに対しそれぞれ右の三分の一に相当する八三、三三三円宛請求することができるというべきである。

八、(結論)

そうすると、

(一)  被告らは不真正連帯債務の関係で、

(1)  原告幸栄に対し、二、七九一、六八〇円(前記認容額から物的損害額を控除した額)およびこれに対し、被告清水については昭和四三年九月五日(本件不法行為の日の後であり、本訴状が同被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかである日)から、被告日比については同月六日(同じく本件不法行為の日の後であり、本訴状が同被告に送達された翌日であることが記載上明らかである日)から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(2)  原告由美、同至浩に対しそれぞれ二、一九一、六六〇円(前認容額から物的損害額を控除した額)およびこれに対し被告清水については、前記昭和四三年九月五日から、被告日比については前記昭和四三年九月六日から各支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払

(二)  被告清水は原告らに対しそれぞれ六四、八〇〇円(物的損害額)およびこれに対する前記昭和四三年九月五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払

をする義務があり、原告らの本訴請求は、右限度で正当であるからこれを認容し、その余はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき、同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 笠井昇 中辻孝夫)

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